太平洋戦争で、200回以上の空戦に出撃し64機を撃墜した撃墜王、故 坂井三郎さんの著書『大空のサムライ』を読んでいます。

当時、零戦の性能がいかに秀でていたとはいえ、一瞬で勝負が決する空の戦いで最後まで生き続けることができたのは、強運や偶然ではなく、何か理由があったに違いない。
私がこの本で感じとりたかったのは、坂井さんの勝負に対する心構えでした。

まさに一瞬の判断が生死を決める無常の世界の中で、坂井さんが何を考えどのように行動していたのか。常勝できたのはなぜなのか。
坂井さんご自身は、あとがきの中で、敵機をいち早く発見できる「眼光翼を貫く見張り力」など、戦闘パイロットとして活躍できた理由をいくつか挙げていますが、私は、客観的に状況を説明できることそのものにその秘密があるように感じました。

大空のサムライ』には、坂井さんの生い立ちやパイロットになるまでの道のりの話から始まり、壮絶な戦いの様子が描かれていますが、文庫2冊約800ページにわたる記録は、いずれも当時の情景が浮かぶほど克明なものです。

かつてイチロー選手は「すべての打席を憶えているし、言葉で説明できる自信がある」という趣旨の発言をしていました。天才と呼ばれる人は、細部にわたり感覚が行き届いていて、普通の人ならすぐに忘れてしまうような些細なことまで憶えているようです。

冷静で客観的な判断力の持ち主である坂井さんの言葉だからこそ、信念について語った次の言葉がとても心に残りました。

戦闘機乗りは、最後の頼みとするものは自分だけということである。
最後というのは、いわゆる巴戦で敵と一騎打ちをやる場合を例にとったらよかろう。

この場合は、徹底的な頑張りがなくてはいけないのだ。戦いの常として、こちらが辛い場合には向こうも辛い。辛い、辛いと思っているときには戦闘は互角である。むしろこちらが勝っている場合が多い。その辛い最後の一瞬を、かならず勝てるという信念で頑張り抜いた人が、空中戦においても敵に勝つ人であって、その苦しい最後のときにヘタばった人が、必ず落とされる運命にある。

大空のサムライ 下 還らざる零戦隊』(坂井三郎著 / 講談社プラスα文庫 / 2001)