私が運営するサイトのドメインには、"share to change"という言葉が使われています。「分かち合って豊かになる」を理念にして情報発信をしたかったからですが、あえてこんな言葉を持ち出すまでもなく、人はたくさんのものを分かち合って生きています。

その中で特に大きな力を持っていると思うのは、言葉です。
どんな言葉を分かち合うか。分かち合えるか。私たちの人生は、気づかないうちに言葉から大きな影響を受けています。

言葉を豊かに使うことで、人生はもっと豊かになる。
そんな言葉の持つ力を端的に表している寓話を見つけました。
『名作コピーに学ぶ 読ませる文章の書き方』という本で紹介されているもので、もともとは『ロスチャイルド家の上流マナーブック』という本で紹介されたものだそうです。

フランスの詩人アンドレ・ブルトンがニューヨークに住んでいたとき、いつも通る街角に黒メガネの物乞いがいて、首に下げた札には

私は目が見えません

と書いてありました。彼の前には施し用のアルミのお椀が置いてあるのですが、通行人はみんな素通り、お椀にコインはいつもほとんど入っていません。

ある日ブルトンは、その下げ札の言葉を変えてみたらどうか、と話しかけました。
物乞いは「旦那のご随意に」。
ブルトンは新しい言葉を書きました。

それからというもの、お椀にコインの雨が降りそそぎ、通行人たちは同情の言葉をかけていくようになりました。物乞いにもコインの音や優しい声が聞こえます。
数日後、物乞いは「旦那、なんと書いてくださったのですか」。

下げ札にはこう書いてあったというのです。

春はまもなくやってきます。
でも、私はそれを見ることができません。

『名作コピーに学ぶ 読ませる文章の書き方』(鈴木康之著 / 日系ビジネス人文庫 /2008)